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「いなくなれ、群青」感想 ~そうとは知らずに「愛」の本質を突き進む少年の、蒼すぎるラブストーリー【おすすめ度:★★★★】

「階段島」シリーズの第1作目「いなくなれ、群青」を原作とする青春ミステリー。
どこまでも蒼く、眩しいほどに真っすぐに、人を愛するという事の神秘的な側面を感じさせる原作のエッセンスに満ち溢れた映像化となっています。

 

★「いなくなれ、群青」

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監督:柳明菜

キャスト:横浜流星、飯豊まりえ、矢作穂香

 

◆予告編◆

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◆あらすじ◆

“捨てられた”人たちの島、階段島。
島の人たちは誰もが自分がなぜこの島に来たかを知らない。
特に疑問を抱くことがなかった七草の島での高校生活は平穏な時間だったが、
幼なじみの真辺由宇との再会により状況は一変する

 

◆感想(途中までネタバレなし)◆
おそらくこの作品は、原作についてお話しなければ始まらないのではないでしょうか。
原作「階段島」シリーズは、かくいう私も1作目しか読めていませんが、ファンタジー要素も、難解で哲学的な要素も含みながら、青春のきらめきを神秘的に閉じ込めた宝石のような作品。
私がプロデューサーだったら映像化したい作品ランキングの上位に入り続けていたベストセラー小説です。

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

 

 

少々読みにくさもありますが、細やかな情景まで浮かぶ繊細な描写、悩める若者たちのヒリヒリするような焦燥感、そして何より主人公「七草」がヒロイン「真辺由宇」に抱いている想いのあまりに美しく汚れの無い真っすぐさに、心を撃たれるような衝撃を感じた作品です。

ただ、その設定上の哲学的な要素やファンタジー要素、神秘的な自然にあふれた孤島の中でのお話といった要素から、映像化はとても難しいだろうなと思っていたんですが・・・まさかここまでイメージ通りに、いやそれ以上に映像化されるとは!


展開・エピソード自体はいじりつつも原作が伝えんとしているメッセージを損なわず、そしてイメージしていた以上にビジュアルで「ああ、いなくなれ群青だわ」と感じさせる表現を繰り出す、その原作リスペクトをつよく感じる出来あがりの素晴らしさに正直びっくり。
アニメではなく、あくまで実写でこの物語を映像化出来たことはとても嬉しく感じます。


※ここから原作含めネタバレあります※

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この作品の大きな仕掛けは「この島に住む“人々”は、“自分自身”によって捨てられた“人格”」であるという設定
そもそも、こんな残酷で美しい設定、作れます?
この時点で私はこの「いなくなれ、群青」が大好きなんです。

そして、そんな人格たちのほとんどが中高生世代の若者たちであるという事。
成長していく過程の中で脱ぎ捨てられていく人格たちは、そんなことさえ知らずにこの島での生活に不満を抱かずただ日々を生きていくーーー
その残酷さと、誰もがうっすらと身に覚えがあるからこそ感じる痛みは、初めて原作を読んだ時から私の心をつかんで離しません。

なので、映画版があくまで「青春ミステリー」として第2作目の要素もミックスして再構築されている事は、正しい判断ではないでしょうか?
2時間の尺におさめる事を考えた時、ミステリー要素を最低限に抑えて青春映画として再構築した本作の脚色は、私でもそうしていただろうととても納得感がありました。

そのもっとも重要な理由は、本作の魅力はここまで深い「愛」を、それと知らずに高校生の少年が自らの言葉のままに綴る物語だということにあるから。

七草は「真辺由宇」を愛しています。
でもその“愛してる”は「彼氏になりたい」とか「気持ちに答えてほしい」などではなく、今のまま、ありのままで、ただ深い宇宙の闇の彼方で光輝く星<ピストルスター>でいてほしいというもの。
理想主義者で、融通のきかない、でもとてもやさしくつよい女性、真辺由宇。

だから、その“人格”そのものを愛したからこそ、そんな彼女がこの“捨てられた人格の島、階段島”に降り立ってしまったことが、なにより七草は許せないのです。
自分が愛したあの“人格”を、なぜ彼女は捨てたのか?
そんなことがある世の中は許されない。

振り返っていくと、現実世界で中学生時代も共に過ごしているふたりは、理想主義者の真辺由宇と悲観論者の七草というぶつかり合ってしまう人格を持っていて、ともに惹かれ合いながらもありのままの状態で共存することがとても難しかったのです。
ふたりは離れるものの、それぞれにそんな自分の人格をこの階段島に投げ捨てて現実世界で自らの愛にもがこうとする。
真辺由宇が現実世界でありのままでいるためであれば、悲観論者という自分の人格は彼女の近くにいない方が良い・・・だから七草はこの島がきらいではありません。

だけど階段島で、その捨てられた理想主義者と悲観論者が再び出会ってしまう。

そうして、現実世界のために捨てられた七草の人格が、そんな現実世界を許さない、「真辺由宇は真辺由宇のままで完璧な存在なんだ」とばかりに彼女を現実へ戻そうとするためにもがく姿は、あまりに純粋で本質的なラブストーリーではないでしょうか。
自己犠牲的な部分以上に、ありのままの誰かを愛するということを、高校生がそれと知らずに体現し、自分の出来る範囲内でもがく姿に乗せて描くというこの物語の挑戦は、小説から映画へと素晴らしい形で昇華されていました。

主演の横浜流星くん。
「青の帰り道」でとても良いなあと思った彼は、語りも多く、感情の起伏が少なくとても難しいこの七草という役を、それでも芯の通った想いをもった等身大の高校生として
体現してすごく良かった。

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重要な真辺由宇役の飯豊まりえさん。
正直彼女を作品でちゃんと拝見した事がないので映画化が発表された時はしっくり来ていなかったのだけど、これまたとても良かった。

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脇を固めるキャストも良かったのですが、出色だったのは堀役の矢作穂香さん。
橋本環奈さんのような美貌で、どこか浮世離れした存在感。
カメラマンさんに愛されているとしか思えない、絶妙な世界からの浮遊ぶりの演出も素晴らしく、また一人期待の女優さんが現れたなあと。

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監督の柳明菜さんは舞台のプロジェクションマッピングなどをされている方という事でしたが、長編1本目としては(駆け足気味ではありますが)とても丁寧な纏め方をされていて好印象。

そしてね、撮影監督の安藤広樹さん!
CMやMVをメインに手掛けられている方ですが1年?2年?ほど前に見た古川原壮志監督の短編映画「なぎさ」でも撮影をされていて、これがめっっちゃくちゃよかったのです。

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かなり色味をいじる方なのですが、今回のグレーディングも独特の蒼さが好きでした。
そして、何より思春期の少年少女の揺れ動く感情の捉え方が素晴らしい。
自然光の取り入れ方、アップの使い方。
(というか、制作陣「なぎさ」観てますねきっと。)

今回、階段島という特殊な設定を再現するのにも成功していて、どこか分からない自然豊かな島、どこまでも続く階段、雲に覆われた山の上、どこまでも続く海岸線などのロケーション撮影もとても良かったです。
これから映画にも関わって行かれるのだとしたら、「ユリゴコロ」「デイアンドナイト」などの「誰が撮ってるか観て分かる」撮影監督である今村圭佑さんのように活躍して欲しいなあ。

(でもちょっとピントがあっていない所があった気がするのですが、あれは演出かな…?)

そんな「いなくなれ、群青」は全国公開中。
是非原作と合わせて鑑賞してみてくださいね。


※画像は全て映画.comから引用
(C)河野裕/新潮社 (C)2019 映画「いなくなれ、群青」製作委員会