「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」のデヴィッド・フィンチャーと、「デッドプール」のティム・ミラーがシリーズ監督を務める意欲作。
各15分程度×18編の短編アニメからなるこのオムニバス映画の感想です。
★ラブ、デス&ロボット
◆予告編◆
ちなみに、、、
公開後に言及されたことですが、どうやらこの18編の再生順は各ユーザーの視聴履歴などからパーソナライズされているようです。画期的!
実際にネットやSNSで感想を見ると、自分が見たのは異なる順序で再生されている方が多々いますね。
この18編、「ラブ(愛)」「デス(死)」「ロボット」という3つのテーマで串刺している以外(厳密にいうと、ロボットの解釈は相当広い。「SF」ぐらいな感じかな)、画のタイプや物語のジャンルも全くバラバラで、ただその濃度だけは一貫して高いというもの凄い完成度。
もちろん、作品によって好みは分かれますが、15分前後という長さの中で視聴者の感情をピークまでもっていくことの出来る、これだけ濃くクオリティの高い短編を18本も用意出来る層の厚さには舌を巻きます。
では、私の表示された作品順に沿って感想を。
◆あらすじ&感想(ネタバレあり)◆
【わし座領域のかなた】
宇宙でのミッション中、転送装置の不具合によって別次元に飛ばされてしまった男。
目覚めるとそこには元カノの姿がー。
監督:Léon Bérelle, Dominique Boidin, Rémi Kozyra, Maxime Luère
制作:Unit Image
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まるで実写と見まがうような3DCGで描かれるSF×悪夢系の物語。
主人公がリチャード・アーミティッジにそっくりでそっくりで。
宇宙で出会った元カノとのSEXシーンが白眉で、アニメであそこまで焦燥感みたいなものを描けるんだなあと単純に感心してしまいました。
Unit Imageは、映画やゲームのVFXなどを多数手掛けているスタジオのようですね。
【ソニーの切り札】
怪物と神経接続して戦うソニーは、ある日八百長を仕掛けられそれを断固拒否。
バトルでは勝利したものの、彼らは別の手を差し向けてくるー。
監督:Dave Wilson
制作:Blur Studio
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顔を切られた女ソニーと、精神リンクして戦う相棒の怪物カーニヴォ―との絆を描く。
八百長を断ったことで死の報復を受けるノオミ・ラパスっぽいイケてるかっこいい女主人公ソニー。彼女の復讐は相棒の怪物が果たす!
暗い画面に浮かび上がるソニーのネオンカラーのタトゥー?や敵の衣装の雰囲気が、ちょっと「パシフィック・リム」っぽくてかっこいい。
Blur Studioは、ティム・ミラーが率いるスタジオのようですね。とても良い。
【ロボットトリオ】
人類の文明が滅びた世界で描かれる、ヘンテコロボット3体の珍道中。
監督:Victor Maldonado & Alfredo Torres
制作:Blow Studio
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一般的な“ロボット”なやつ、カメラを内蔵した「インターステラー」のターズみたいなやつ、感情表示型のちびロボットの3体が、荒廃した世界で滅び去った人間の世情を学びマネする、癒されるオフビートコメディ。
しゃべる猫がいっぱい登場するラストは良くわかりませんでしたが、可愛くて◎。
Blow Studioはどちらかというと広告系のCGスタジオなのかな。
【目撃者】
今まさに女を殺した殺人犯の男と目が合ってしまった主人公は、目撃者として追われるハメになるがー。
監督:Alberto Mielgo
制作:Pinkman.TV
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「ブレードランナー」風な猥雑で混とんとした街を、追われながら駆け抜けていく主人公がたどり着いたラストは、その男を殺した所を、窓の向こうからその男に発見されるという無限ループの世界。
ラストは嫌いではないのですが、途中下着をはかずに陰毛丸出しで街をかける女性の画がちょっと嫌悪感ありました。それ必要?
ただこのPinkman.TV自体が過去のラインナップを見る限り中毒性ある映像が上手いスタジオのようで、そこはとても活きていました。音楽との合わせ方が上手い。
【スーツ】
農場の先に時空ホールが開いてしまい大量のエイリアンが襲撃!
全ての農場主たちは、ロボットスーツに乗り込んで立ち向かう。
監督:Franck Balson
制作:Blur Studio
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再びBlur Studioですが、まったく絵柄が異なります。
のどかな農場。見回り行ってくるね~と言ったかと思えばロボットに乗り込むという、新鮮でテンポ良い展開で掴み、勇気ある父の姿が輝かしいヒーロー譚。
バリアに守られたエリアでみんな幸せに暮らしましたとさ、というラストも、ダークな物語が多い中でちょっとだけ優しくて好きです。
【魂をむさぼる魔物】
洞窟の奥で発見されてしまった魔物。彼らによる虐殺が始まるー。
監督:Owen Sullivan
制作:Studio La Cachette
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なんだかちょっと「アルプスの少女ハイジ」のようなのどかさのある線で描かれる2DCGなのに、もしかしたら作中一番グロがエグいかもしれない。
切り裂かれる息子。散り飛ぶ血飛沫。個人的にはちょっと絵柄やその動きと内容とのアンマッチぶりが(それが持ち味なのでしょうが)苦手かなあ。
【ヨーグルトの世界征服】
培養された菌入りのヨーグルトが、まさかの世界征服!?
監督:Victor Maldonado & Alfredo Torres
制作:Blow Studio
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ロボットトリオと同じBlow Studioによるブラック・コメディ。
ヨーグルトがオハイオ州を100年リースします!とかなかなかシュールで面白い。
(なんでオハイオ州なんだろう?)
【グッド・ハンティング】
古くからこの地に住まう狐の妖怪。
今は亡き父と共にかつて彼女たちを狩っていた青年は、父が殺した妖怪の娘ヤンとともに文明化が進む香港の街で生きていたがー。
監督:Oliver Thomas
制作:Red Dog Culture House
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これが一番好き!
父が殺した狐の妖怪の娘ヤンに、生涯明かされる事のない恋心を抱く青年。
文明化していく香港の街で、蒸気機関の仕組みを覚え働く彼と、かつて自分を救ってくれた彼を信じて人間として香港の街で生きることを選んだヤン。
しかし、かつてその母が「男を騙して生きてきた」ように、この街で人間の女性として生きるには男に仕えるしか道はなかった。
狐に変身できることが心の安息だった彼女が総督の愛人となり、その性癖のために美しい顔と恥部だけを残して全身を機械化されてしまうという悪夢、そしてそんな彼女を救うために、自身の持つスキルで彼女の想いに答える青年。
狐のロボットへと改造されたヤンの美しさに、青年の愛が滲むいじらしく愛しい作品です。
Red Dog Culture HouseはゲームやアニメCGがメインのようですが、文明化していく香港の街に漂うスチームパンクの香りも含め、現実感がありながら浮遊するような映像が美しい。
原作はケン・リュウによる「良い狩りを」で、これはベースの原作も良いのでしょう。
敢えての2DCGが、美しい物語を最高の形に昇華する大成功例。
【ゴミ捨て場】
立ち退きを要求されるも動じることのない老人。
その敷地内に住まうのは、果たして老人だけなのかー!?
監督:Javier Recio Gracia
制作:Able & Baker
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ひたすらに画面が汚い(笑)。なぜか無駄に陰部を露出する登場人物たち(笑)
怪物との共存というオチでみせる、ブラックでシュールな笑いですね。
Able & Bakerは、情報が少なくてポートフォリオが分からずでした。
【シェイプ・シフター】
野生の能力をもち、兵士として戦場で戦う狼人間の青年たち。
敵であるタリバンの中に潜む同族から襲撃をうけ凄惨な死体となった相棒ソビエスキーの仇を打つために、本来の姿となって戦いを挑むー。
監督:Gabriele Pennacchioli
制作:Blur Studio
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再びBlur Studio。こちらも精細な3DCGと、アニメだからこそ描けるダイナミックな狼への変身描写、闘いの描写が素晴らしい。
その能力ゆえに人間の中で生きる事の難しさと、同じ能力を持つ仲間としての2人の青年の絆を描く物語。
月夜の中自身の本来の姿を受け入れさらけ出すこと、その能力を受け入れること、そして狼人間としてありのままの姿で生きることを選択するラスト。
とても良い!
【救いの手】
宇宙で作業中、スペースデブリによって放り出されてしまった主人公。
宇宙船に戻るため、彼女が使った最後の手段とはー。
監督:Jon Yeo
制作:Axis Studios
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こちらは「ゼロ・グラビティ」×「127時間」的な宇宙での孤独の物語。
タイトルが全て。この手を失ってでも、宇宙船に戻る!
「ヘイロー」や「リーグ・オブ・レジェンド」などのゲーム系のCGが得意なスタジオのようでポートフォリオがなかなかのラインナップでした。
【フィッシュナイト】
荒地の真ん中で車が故障し、一夜を過ごすことになった男たち。
その夜、彼らの目の前に現れたものはー。
監督:Damian Nenow
制作:Platige Image Studio
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遠い昔、長い間海だった場所で、夜になると現れる深海の幽霊たちの姿。
描かれる幻想的な光景にのめり込み過ぎて、自らもそちらの世界に入り込んでしまった男は、海の世界の恐ろしさを忘れていたようですね。
ただただ絵が美しく、それに引き込まれた男が辿る悪夢もまた幻想的で美しい。
【ラッキー・サーティーン】
かつて2度、乗組員だけ全滅して戻ってきたという呪われた機体「13」に乗り込むカッター。
相棒となった13との幾度にも渡る戦いは、遂に最後を迎えるがー。
監督:Jerome Chen
制作:Sony Pictures Imageworks
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こちらも実写かと思うような映像で描かれる、戦場のちょっと良い話。
呪われていると言われた「13」を愛機とした女性が追い込まれ機体の自爆を図るが、13はそれを拒否。
しかしその理由は・・・という、人間と機械との愛と信頼のお話です。好き。
【ジーマ・ブルー】
世界を虜にする壁画作家ジーマ・ブルー。
彼を取材することになった記者クレアは、知られざる彼の物語に触れることにー。
監督:Robert Valley
制作:Passion Animation Studios
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このシリーズの中でもっとも哲学的な観念を描く作品。
アーティストがその追及の旅路の果てに自身の原点へと戻っていく物語は、王道ではありながらやはり余韻が素晴らしいです。
プール掃除ロボットから、どんどん機能が付加され人造人間のようになったジーマ。
彼の最後の作品発表会は、そうして付加されていった彼の機能がそぎ落とされ、ただのプールの掃除ロボットへの回帰をそのまま見せるまさにアートでした。
ジーマ・ブルーに揺れるプールの水が美しい。
【ブラインド・スポット】
トラックに積まれたCPUを盗む強盗団の計画は完璧なはずだったがー。
監督:Vitaliy Shushko
制作:Elena Volk
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こちらはうってかわって、思想や物語はさておきアクションを見せる作品。
うーんこれは特に感想がない…。
【氷河時代】
冷蔵庫をあけると、そこはなんと氷河時代。
恐ろしい速さで文明化が進む冷蔵庫世界では、人類はこの先どうなるのかー!?
監督:Tim Miller
制作:Digic Pictures / Blur Studio / Atomic Fiction
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あ、これティム・ミラー監督なんですね。
むしろ一番「ラブ」「デス」「ロボット」関係ないような気も…?笑。
冷蔵庫の中で進む文明化、中世から産業革命へ、そして現代となりその先に待つのは核戦争で、崩壊した社会はまた一から作り上げられていく。
そうして繰り返されていく歴史をミニチュアで観るような作品ですね。
【歴史改編】
ヒトラーの死亡時期が違う場合6バージョンを楽しめるアプリが登場!?
監督:Victor Maldonado & Alfredo Torres
制作:Sun Creature Studio
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ヒトラーの人生の大きな局面が変わるのかと思いきや、子供時代の1場面からどんどん人生と危機が創作されて世界がとんでもない方向に進んでいくブラックコメディ。
ヒトラーがこういうネタ素材化するのには若干違和感があるんですが、どうなんでしょうね
【秘密戦争】
雪深いロシアの山奥に潜む恐ろしいモンスター討伐に出る秘密部隊。
彼らが大量に潜む巣穴を見つけた部隊は、最後の戦いに挑むー。
監督:István Zorkóczy
制作:Digic Pictures
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オカルト信仰者が現世に召喚してしまったモンスターたちとの死闘が凄まじい。
初期作戦での封印失敗、土地の崩落。
それを見た大将は、息子にこの土地の空爆依頼を託して最後の戦いに挑む!
「リーグ・オブ・レジェンド」などを手掛けるゲーム系CGに強いDigic Picturesが手掛ける戦闘描写はとてもかっこいいし、死を避けられない中で大将についていく戦士たちの漢気が熱い。
最後を締めるにふさわしいヒーロー譚でした。良い。
個人的にはこちらの6作品が特にお気にいり。
・ソニーの切り札
・グッド・ハンティング
・シェイプ・シフター
・フィッシュナイト
・ジーマ・ブルー
・秘密戦争
ティム・ミラーのインタビューをちょっと漁ってみたのですが、こちらで言及していた内容がまあその核心かなと。
NetflixやAmazonプライムビデオは、テレビや映画館といった“パブリック”ではない空間にエンターテイメントのプラットフォームを築き上げた。これにより、メインストリームから外れていた多くのクリエイターに、作品を公開するチャンスが訪れることになった。
この“パブリックではない”というのが全てかなと思っていて。
インターネットやSNSが普及してマスがなくなり多様化していく趣味嗜好に対して、映画館での興行というのはもちろん一つの形態としては健在ながらも、それが映画の全てではなくなってきているのだと思います。
リアルタイム性を持ち、大がかりで派手な映像を見せるために最大公約数を狙う劇場でのヒット作と、細分化された中での高濃度な一帯を狙い撃ちにくるネットフリックスオリジナルのような作品は、全然別軸なんだよなーと。
そこに「ラブ」「デス」「ロボット」という、クリエイターたちのイマジネーションを大いに刺激する(そして、一部の視聴者の期待感を否応なく掻き立てる)画期的なフレームを用意出来た時点で、この作品は勝ったも同然。
是非お気にいり作品を見つけてほしいです。
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※画像は全てimdbより引用