2019年アカデミー賞作品賞&助演男優賞&脚本賞を獲得した話題作「グリーンブック」。
ウェルメイドな物語と魅力的なキャラ、そして根底に滲むメッセージ性が心に沁みる、多くの人におすすめ出来る良作です!
助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリもいいし、何より主役のヴィゴ・モーテンセンが良い~。
そんな「グリーンブック」の感想です。
★「グリーンブック」
監督:ピーター・ファレリー
キャスト:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ
◆予告編◆
◆あらすじ◆
舞台は1962年のアメリカ。
仕事を失ったイタリア系アメリカ人トニーは、天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーが8週間かけて南部を回るコンサートツアーの運転手を務める事に。
初めて足を踏み入れる南部はしかし、黒人差別が根強く残っていた。
しかしその旅路は、二人だからこそかけがえのない旅となる―。
◆感想(ネタバレあり)◆
日本にいると、ニュースや情報で当然触れてはいながらも、なかなか“実態としての実感”が持ちづらい黒人差別問題。
それを題材とした映画がコンスタントに作られているという事自体が、むしろその根深さを身に染みて感じさせる要素かもしれません。
「グリーンブック」は実在の黒人ピアニスト ドクター・シャーリーと白人の運転手トニーとの実話をベースにしており、差別問題に関する問題提起、観る人に考えさせるきっかけを与えてくれる作品。
だけどそれ以上に、人と人との関係性が育まれていく様や、人間の温かい側面に目を向けさせてくれる物語に、私はぐっと来ました…!
肌の色という違いを超えて、目の前の人と向き合う事、相手を受け入れるという事が持つ豊かさを描き出しています。
トニーは、生活費の為に嫌っていた黒人との仕事を受け入れます。
彼は道中、ドクターに「黒人はフライドチキンが好物なんだろ?」と言って大量に買ってきたり、演奏会に入れない黒人たちの賭け遊びの場に入って勝ち逃げてきたりします。
そこで思うのは、その「嫌っていた」という前提は悪意や嫌悪などではなく、単に「そういうしきたりだから」「そういうものだから」自分たちと彼らとの世界が違うものとして生活してきていただけなのではないか?という事。
彼はフライドチキンが黒人にとってどういう食べ物か、演奏会に入れない彼らの遊びを奪う事にどういう意味があるのかに全くの無知。
(※フライドチキンは、黒人差別と結びついたセンシティブな食べ物。また、彼らの娯楽を、演奏会に入れる側のトニーが奪っていくのは、今でいう「文化の盗用」に近い)
そんな彼の無邪気な無知さ。
そこには、黒人/白人という分けられた世界が続く事で、異常であるはずの「人種差別」を当たり前に受け入れてしまっている世代が存在する事、そうして築き上げられた「差別意識の無い社会」こそが分断の長期化・深刻化を生んでいるという一つの事実が隠されているように思います。
だけどトニーは、ドクターの生演奏を聞くや否やノリノリで「こいつは天才だぜ!」と受け入れます。
そして、彼がゲイであるという事実も「ナイトクラブでよくみてたから知ってるよ」とあっさり受け止めます。
実際のトニーがそうであったかはさておき、ゲイという当時(今もか…)差別的にみられていたもう一つの要素をトニーが受け止めたのは、それを差別するという環境・土壌・文脈をもっていなかったからなのではないでしょうか?
文字もろくに書けず、ルールも守れない粗野なトニーは、旅路の中でドクターを知って受け入れることで、知識と教養を彼から少しだけ譲り受けます。
ドクターへの敬意、感謝、そういったポジティブな気持ちが、トニー自身にもポジティブな変化と進歩をもたらすのです。
そして黒人×天才×ゲイという、あまりにマイノリティなアイデンティティによって、心理的安全のある場所も人も持てずにいたドクターに訪れる変化。
ヅカヅカと踏み込んでくる、チキンを食い散らかし、すぐ手が出てしまう粗野な男の根っこにある太陽のような明るさが、彼の心に一筋の光をもたらします。
「寂しかったら自分から踏み出せ」
いつも背筋をぴんと伸ばして気品を保っている彼が、その言葉でみせる“ゆるみ”。
演じるマハーシャラ・アリの持つ高貴なオーラはなかなかに唯一無二のもので、チキンをかぶりつこうとも、酒に酔おうとも揺るがなかったその優雅な立ち姿が、ふわっと軽くなった瞬間の輝き!
彼もまた、相手を受け入れる事でほんのちょっと人生が豊かになったはずなのです。
歴史が生んだ悪しき仕組みも、人と人が向き合って関わりあう先にはきっと超えていける。
向き合い受け入れる事が、人をほんのちょっと豊かにする。
そんな優しく希望に溢れたメッセージこそが、監督が言いたかった事なんじゃないかな。
そんなわけで、あの「メリーに首ったけ」などのお下劣下ネタ映画をとっていたファレリー監督の作品とは思えないほど、「上手い!」と唸る脚本・演出がひかる、優しく温かくそして楽しいロードムービーとして仕上がっていたのにびっくり!
そして監督もインタビューで言っていたけれど、この作品の肝はなんといっても主演の二人です。
ドクターを演じるマハーシャラ・アリの気品についてはさっき書いた通りで、もはやそれで物語が成り立っているような部分さえあるように感じます。
そして、個人的にはもうオスカーあげてもよかったのに!と思うぐらい、ヴィゴ・モーテンセンがよかった!
彼本人は、詩人でもあり絵描きでもありマルチリンガルでもあり、「粗野」「無教養」とは対極にいるような人。
これまで演じてきた中では「イースタン・プロミス」の“マフィアの雇われ運転手”役が一番近いのかもしれないけれど、やっぱりほっとくと知性や繊細さが溢れ出てしまう人なのです(そしてそれは「イースタン・プロミス」の中ではキーポイントでもあります)。
そんなヴィゴが20kgも増量して見せた、あの粗野で陽気でアホみたいにフライドチキンを貪るトニーのなんと魅力的なこと!
むっくり脂肪でたるんだお腹の上で、ちっともときめかないラブレターを書く彼のなんとキュートなこと!
嫌々運転手をしていたのに、ドクターの演奏を聴いて一気に目をキラキラさせてノリノリになってしまうトニーが可愛すぎます…!
そして、何か国語も話す彼だからこそイタリア語のセリフ回しも最高に地に足ついていて、まるで母国語かのような安定感。
この作品でヴィゴさんを知った方は、まずはこのあたりの作品を観てみてください!
◆ロード・オブ・ザ・リング … 説明不要の出世作!「王の帰還」までの三部作
◆ヒストリー・オブ・バイオレンス … クローネンバーグ監督とのタッグ第1弾
◆イースタン・プロミス … クローネンバーグとの2作目。お風呂で全裸ファイト!
◆ザ・ロード … 父と子のハードな終末ものロードムービー。泣ける!
この作品には、いろいろな批判があります。
ググればいろいろな視点のコメントが読めますが、そこに異論はないし、色々な観方があって当然だと思います。
だけど、マハーシャラ・アリとヴィゴ・モーテンセンという素敵すぎる2人の掛け合い、共に受け入れる事で生まれる友情のきらめき、楽しくて優しいロードトリップをこのままずっと観ていたい!という純粋な感情を大事にしたい。
友情に、人種なんて関係ない。
「グリーンブック」は全国の劇場で公開中。
是非いろいろな人に見てほしい作品です。
※画像は全てimdbより引用