加点式で観るか、減点式で観るか。
映画の観方は人様々だと思うけれど、最終的にはこのどちらかではないか?
私は基本的に、加点方式。
2時間の完璧に統制された綻びの無い芸術品よりも、心躍る決めシーン、想像力を刺激されるビジュアル、愛しく追いかけてしまうキャラクター、もちろんそういった要素が揃っていたら最高だけど、一点突破の花火でも良いと思っています。
この作品に関して言えば、「ロンドンに喰われる!」これがもう最大級の打ち上げ花火!
そのマジカルなビジュアル、この世界観を構築する要素全てにわくわくしてしまうんだもの、しょうがない、色々と目を瞑りましょう。
そんな偏愛要素に満ちた新作の、それなりにダメ出したっぷりな感想です(笑)
★移動都市/モータル・エンジン
監督:クリスチャン・リヴァーズ
脚本:ピーター・ジャクソン、フィリッパ・ボウエン、フラン・ウォルシュ
キャスト:ヘラ・ヒルマー、ヒューゴ・ウィービング、ロバート・シーアン、ジヘ
◆あらすじ◆
文明が崩壊した世界。移動型の都市での生活を余儀なくされた人類。
弱小都市を飲み込み、その部品や燃料をリサイクルする事で拡大を続けるロンドンでは、影の権力者ヴァレンタインがある野望に向かって突き進んでいた。
しかしある日、飲み込んだ弱小都市からもぐりこんだ謎の少女ヘスター・ショウが、彼にナイフを突き立てる。
一度はヴァレンタインにロンドンを追われたヘスターだったが、そこで出会った青年トムと共に再びヴァレンタインへ挑むー。
※細かいキャラ紹介や解説はしませんので、気になる方は公式サイトへ。
◆予告編◆
【原作】
◆感想(ネタバレ無し)◆
初めにお伝えしておきますが、当方は歴の入った「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズオタクで、ピーター・ジャクソン(PJ)には足向けて寝れない人間です。
おまけに「ホビット」特典映像で、あまりの制作デスマーチですっかり頬がコケて、プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも乗り越えてくれたPJを観てしまった以上、何があっても彼を悪く言うような気持ちにはなれない。。。
この作品は、そんなPJの中つ国シリーズ他多くの作品で、ストーリーボードとして長年彼に仕えてきたクリスチャン・リヴァーズ初の大作。
LotRスタッフの初監督作品を、PJが製作総指揮と脚本でバックアップしてくれているという背景だけでも加点したくなっちゃう。
おまけにプロダクションデザインは、中つ国シリーズも手掛けているダン・ヘナさん。
そりゃもう、世界観は120%大好物なわけです。
荒廃した世界。
食料、燃料、資源がもっとも重視された結果誕生した「移動都市」という発想!
蒸気機関で動き、煙突から黒い煙を吹き出しながら駆ける鋼鉄の都市。
進むたびに大地に深く轍を残す、超大型の車輪。
そして、大が小を喰い、解体し再利用して巨大化していく都市同士のパワーゲーム。
原作があるとはいえ、こんな中学生の妄想みたいなアイディアを愚直に浪漫溢れる映像として魅せられたら、わくわくしないはずがありません!
「我らはロンドン!(We are LONDON!)」という台詞も最高で、ヒューゴ・ウィービングのセリフ回しの上手さも相まって爆上げポイント。
セント・ポール大聖堂(ぽい聖堂)がその最上部に鎮座するっていう都市構造も最高だし、そこで人知れず仕込まれる大量破壊兵器…っていう嘘みたいな設定をよくもまあ、という感嘆もあり。
しかも彼らは“捕食都市”=英語で Predetor City って言われてるんですよね。
プレデター・シティ。プレデターですよ?
そんなプレデター・シティに住まう人々は、我らがロンドンが弱小都市を今日もまた飲み込んでいく様をまるでエンタテインメント・ショーのように観戦することが最大の楽しみ。
物資も資源も足りない小都市は、基本的に逃げるしかない。
小都市として、ロンドンからみたらサイコロかと思うようなサイズしかない都市、地を這う昆虫型の宿?のような都市や、空の上にある飛行船都市などいくつかの都市世界を楽しむ事が出来ます。
(最高レベルに安全性が低いとか、その高度で呼吸はどうしてるんだとか、戦うつもりにしては飛行艇が戦力低すぎとか、そういうのは置いといて・・・と。)
そして、都市の中の旧文明の魅せ方もいい感じ。
ちゃんと古代文明として我々世界のテクノロジーが展示されていたりするんだけど、「古代アメリカ神」として展示されている〇〇〇〇には笑いました。
そうでした、ユニバーサル映画でしたね笑。
蒸気機関車のように動く都市の駆動部、80年代ぐらいのボタンパネルでこの都市を制御する管制室、そして望遠鏡などに感じる浪漫は、SL列車を観るとわくわくするのと同じような感覚。
なんというか、エモい。
そんな心躍る世界観の中で、主人公となるのは復讐に燃える独りの少女ヘスター・ショウ。
えんじに近い赤色のストール、ひらりとゆらめくロングコートと、これまたスタイリング完璧。
演じるヘラ・ヒルマーは初めて観る女優さんですが、なかなか良かった。
目力があってキリっとしつつ、ちらっとみえる弱さに可愛らしさが滲む。
そして、彼女が挑むロンドンの権力者ヴァレンタイン。
ヒューゴ・ウィービングのお髭の具合がとてもよくて、かっこいい。
完全なる悪役として、いやーな表情をこれでもかと見せつけてくれます。
他にも、ジヘ演じるアンなど良いキャラもいるんだけど・・・
基本的に偏愛ポイントは、加点式で言えば1億点!の 「移動都市」のビジュアル、この一点突破!
オタク的な感性という点では、やっぱりPJは間違いない。
彼が心を躍らせるものには、私も心躍らせてしまうんですよね。
(ちなみにもう一人の信頼筋は、ギレルモ・デル・トロです)
それだけでも個人的には1800円払う価値はあると思うので、大スクリーンで動く都市を観たい方、そこに浪漫を感じる方は是非見てみてほしい!
ここからは、減点式で愛あるダメ出しでもしようかな。
◆感想(ネタバレ有り)◆
①移動都市VS移動都市 が観たかった
原作あるので何ともいえませんが、とにかく冒頭10分がすべて!!
あれを延々やってほしかった!
浪漫を感じるポイントって「小が大に挑む」だと思うので、ヘスターは弱小都市に、ヴァレンタインはロンドンに紐づけた上で、弱小都市がヘスターの元に一致団結してロンドンを倒そう!ってなる展開こそを皆待っていた気がするんですよね。。
「パシフィック・リム」に近いかな。
金属の塊が国や都市を代表して敵に立ち向かう…っていう構造。
ヘスターは所属都市の無い少女でもいいので、それでも弱小都市を束ねる存在になっていく過程と彼女の成長が絡むような物語だったらもっとカタルシスがあったな…と。
②相手役トムが微妙
これも皆さん賛否あると思うんだけど、相手役トム君不要だった気が…。
キスシーンなく、硬派に終わったのはナイス判断だと思うんだけど、そもそも彼が足を引っ張ってる感がずっと拭えなかったんですよね。
しかも、「愛する相手」として魅力不足というか、、、ヘスターが頑張る横で独り無知っぷり丸だしで頼りなさすぎる。
演じるロバート・シーアン君、もうちょっと演技頑張って!
(その分、反移動都市同盟チームはかっこよかった!)
③シュライクがもったいない
恐らく、PJの偏愛キャラなんではないかなと思うシュライク。
死んだのちに人造人間として復活した彼は、母親を殺され行き場をなくしたヘスターを拾い育てていくうちに「貴方の悲しみがなくなるように、人造人間にしてあげよう」という約束をする。
愛情を持たないはずの人造人間が少女を愛しく思う事が、死に繋がってしまう悲しさ。
そして、それよりも復讐という感情に正直に動いて約束を反故にしてしまうヘスター。
この辺の哀しく切ない物語が・・・全然活きてない!
そもそも説明不足な世界観に、さらに謎の人造人間が登場してきちゃってさあ大変!
もったいない…いい背景を持ったキャラクターだったのに…。
④CGがちゃちい箇所がある
見せ場の冒頭10分はいいのですが、その後地上をさまようヘスターたちの周りを南部の危険な都市が襲ってくるシーンなどで、明らかな合成感を感じるシーンがいくつか。
そこは頑張って!!
⑤つまるところ・・・監督の力量不足!
これ言っちゃうと全部そこに集約されてしまうんだけど、正直素材がいいだけにちょっともったいない。
ハリウッドでは突然大作監督に抜擢されて、それは見事に傑作をに仕上げちゃう天才たちが沢山いますが、彼には荷が大きすぎた気が。
決めどころのショットだったり、展開上の取捨選択だったり、いろいろと「ちょっと違う…」という感じを拭えないんですよね。
そして一番の問題点は、この膨大すぎる情報量を持つ世界観を大して説明しない!!
その割にガンガン見せ場だけで話が進んでいく!!
いや、別にいいんですけど、絶対に一般客ついてこれないよね・・・。
例えば「アクアマン」も「アリータ」も、見せ場を盛り込みまくって凄いスピード感で話が展開していくんだけど、それが魅力になっていたので「最近の映画はこれぐらいの詰め込みすぎ感でちょうどいいのかも」と思っていたんだけど、やっぱりそこにはそれを捌けるだけの監督の力量が必要なんでしょう。
そして、基本的に軸はちゃんとキャラクターの成長物語にあるんですよね。
ヘスターは確かに成長してはいるんだけど、監督・脚本陣の興味が圧倒的に移動都市のビジュアルにあるのは明らかなので、どうしても弱くなるよねーと。
そんなわけで、ダメな部分はいっぱいあるし結構大変な大コケをしてしまった作品だけど苦笑、多分見放題サービスで配信されたら冒頭10分だけちょこちょこ見てしまうんだろうな、、、という偏愛作品。
気になる方はみてみてくださいね!
全国公開中です。
※画像は全てimdbより引用